てんから庵 閑話 其の一 赤岩魚をさがして・・・

岩魚をさがして・・・

古棒杭沢という谿・・・、
浦山川水系 古棒杭沢


 浦山川の支流の支流の支流、つまり葉谿である。
1/25000の地図にも水線は記されていなく、僅かに山襞が示されているだけだ。

出合いからは渓谷状で滝場の続く私の技量では悪場で遡るにはとてものことに難しく、
一時間以上も遠く回り込んでから小尾根を越えて悪場の上に辿り出ねばならない。

谿名も判らずに随分と、あれこれと調べてみたが、判らなかった。
ある時、偶然にも昭和40年代の地図を見ていたら、此の谿は「古棒杭沢」であり、
流れ出る頂が 「古棒杭ノ頭」 と記されてあって小躍りしてこの発見を喜んだ。
しかし、その地図以外では 「古棒杭沢」 と示されているのを見たことはない。



 出合いは実に悪い。
3m.2m.5m.3mと幾重にも滝が連なっている。
しかも、両側は高い岩壁である。

其の上は明るく穏やかにみえる。
が、それも束の間で、少し登って振り仰げば
峡谷状の中に更に5〜10mの滝が数段も連なっているのだ。

遠く小尾根を越えて辿り来ると此処の峡谷状の上に降り立つ。

 やっと遠回りをしたと云うのに、直ぐに次の峡間の悪場が始まる。

此の複雑な滝場に辿り着くからだ。

先ずは3m滝が前衛の滝、
次に倒木が立ち塞がった8m2段滝、
其の上は、何故か複雑な滝場だ。
向って右から、
10m.5m.10m.8m滝が横一列に並んでいる。
いかにも、摩訶不思議な光景である。

恐る恐る、左岸を高巻いて、その訳は判った。
此処の滝場が殆ど同水量の二俣の出合いだったのだ。
つまり、右の滝の二本は右俣から落ちる滝、
左の二本の滝は左俣から流れ落ちた滝であった。
二俣からの流れが出合う寸前に滝となって落ちていて、
滝壺が二俣の合流地点の訳であった。


 此の滝場を越えると谿は穏やかな流れに一変する。
“始め悪けりゃ上は好し”の喩えとおりに、昼寝でもしたくなるような処だ。
小滝も淵も無く、落差の少ない落ち込みを連ねて奥へ奥へと上がって行く。
そして其処には、小作りな赤い斑点を持った岩魚達が棲んでいた。


“なぁ お前、水が増えたら 洞に隠れて必死に堪えて留まることだ。 滝の下に落ちたら、もう昇ってはこれないからなぁ。”


                                                            
平成22年(2010) 夏.



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