てんから庵 難儀な難所を越え行くと・・・

岩魚をさがして・・・、

難儀難所くと
横瀬川水系 小持沢


奥武蔵タイプの赤岩魚を捜そうと、朝早くに起きだして出かけた。
此処の谷は以前に二度ほど辿ったことがある。
が、釣り遡って五時間ほどの処が峡間のゴルジュになっていて抜けられず終いだったのだ。
今日は、体力と時間を残しておく為に峡間のゴルジュまでを、ひたすらに歩いてその難所の上を覗く予定なのだ。

 
   水量の少ない谷に降りる。
流れの右岸に薄い踏み跡があるのだが、尾根上へと登っていってしまう。
渓相は良い、私の影に魂消て小型の岩魚が慌てて石の下に隠れる。
鼻歌気分で、約一時間ほども歩いた。

 先ずは、第一の関門に行き当たる。
此処は、高さが三㍍を越す大岩が累々と重なり合って屏風の様だ。
水流は半分以上が大岩下を潜っているのだろう、僅かに小滝を成している。

 越えるのは兎に角も難儀だ。
万一、大岩が転がって下敷きになってはいけない。
足を踏み外して、岩間に転がり落ちてもいけない。
已む無く、右岸の斜面を高く登って巻いた。
 
  大岩の積み重なる難所の上に降り立つ。
谷は急斜だが、落ち込みを連ねて渓相は良い。
落ち込みには、小型の岩魚が遊んでいる。

 やがて、20m程の傾斜の緩い滑滝に着く。
流れの左側を、木の根を手繰りながら越えた。
 
   いよいよ難所の、峡間のゴルジュに着いた。
岩間には2~3mの滝が五本架かっていてとても登れるものではない。
画像で見ると、左岸は如何にも容易く巻けそうだが、
更に、この上は岩壁が垂直にそそり立っているのだ。
右岸は岩壁なので、左岸を高く巻いた。
お助け紐を次々に木の根に括っては少しづつ慎重に進んだ。

 やっとの事、30分ほども格闘して巻き上がった。
此処から先は、初めて足を踏み入れる。
穏やかなゴーロで渓相は良いのだが、如何にも水量が少な
果たして、“こんな細い流れに岩魚は棲むのか・・・。”
 
 竿を繋いで2㍍仕掛けに毛鉤を結んだ。

暫くすると谷は大岩・大石で埋まり伏流する悪場が100mも続いた。
やがて、水流は復活したが水量は少ない。
“果たして、岩魚は棲んでいるのか・・・” 不安であった。
暫くすると、五寸ほどのまだ幼紋の残る岩魚が毛鈎を咥えた。
“こんな細流な棲んでいた!”感動した。
 
  随分と遡って、岸壁の下に小さな小滝の落ち込みがあった。
毛鈎を泳がせると、朽ちた流木の下から黒い影が浮き出て咥えた。
遅合わせで竿を返すと、グンとした中り。
 

朱色の魚体が鮮やかに見えた。
“ヨシ・・・赤岩魚だ!!”
  
   
 八寸の原種の奥武蔵タイプであった。
脇腹の朱斑は鮮やかで、なにより各鰭は朱を刷いている。
これほど朱色に彩られた個体は、そうお目にかかれない。

“頑張って沢山に子孫を残せよ・・・。” よく云い聞かせて、流れに戻した。

 此処らは、彼等の終の聖域であるらしい。
土足で立ち入り竿を出し犯すのは無用だ、自然の摂理にまかせよう。


                                                     平成27年(2015) 初夏. 




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