てんから庵閑話 柔らかい娘さんの手と 高価なテンカラ馬素は・・・、


らかいさんの 高価てんから馬素は・・・、

  春は三月、十六夜だ・・・

 家の近くの 赤ちょうちんへ行った
此処には 色っぽい女将さんがいる、
そして 可愛い娘さんもいる。

 ホッケの塩焼きをお菜に お神酒を程よく戴いた。
『おう 帰るょ』 と 声を掛けると
『三千八百えんでぇす』 と 娘さんが云う。

 今日は よい心持だ
お札を一枚渡して 『釣りは いらねぇよ』 と 云った。
『わぁ ありがとうございまぁす だから爺さんは 好きぃ』 と 云う。
“歳はとっても 我は相変わらず もてるものだ” と 思った。
今日は、店の外にまでも送ってくれて、なんと手までも握ってくれたのだ。
娘さんの手は しっとりとしていて柔らかい・・・。


 何気なく財布を覗くと “あれ 一万円札が無い” ではないか、
“しまった!” 五千円札と間違えてしまったのだ。
手までも握ってもらってしまっては 今更 「間違えた」 とは 云えない、
愕然としてしまった。

 何時も 釣り道具屋を覗くと
二千七百円のてんから馬素が 欲しいと思う。
でも 高いから千五百円のを使っている。
千五百円の馬素も 毛鉤は良く飛ぶけれど、
二千七百円の馬素はもっと 良く飛ぶに違いない。
“もっと良く飛ぶテンカラ馬素と 娘さんが手を握ってくれたこと・・・”
しばし 心の天秤にかけて考え込んでしまった。
ややあって 我の心は“娘さんが 手を握ってくれた方”に 軍配を上げてしまった、
だから・・・ だから・・・ 我は 釣りが何時までたっても達者にならないのだ。

釣りの道具は、値段が高いから良いとは限らないのだ。
自分に合ったものが一番だ、
でも・・・ 何処かに 高価な其の値打ちは あるに違いない。


                              
平成十六年(2004) 春.



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