てんから庵 閑話 秩父の春、長瀞の火祭り そして露秩父・・・


秩父春、長瀞火祭 そして露秩父・・・


 春は弥生の三月の四日、実に良い天気。

今日は、長瀞の「火祭り」を見ようと出かけた。

 『俺も行く』と云う、奥武蔵の山の連なる奥地に住む花ノ魚爺を乗せて、
車は、名栗湖から広河原逆川林道で峠を越えて秩父へと入った。
峠を越えると浦山川の上流の広河原谷の流れに林道は沿って下る。
 『やぁ 居る居る居る、釣りキチ共がいっぱいいるぞ。
見れば、林道の端の広くなった処は車でいっぱいだ。
熊谷、所沢、多摩、大宮、果ては土浦ナンバーまである。
朝からもう一流ししたのだろうか、
車の横で休んでいる奴、テクテクと林道を歩いている奴。
 『こりゃぁ 秩父漁協は儲かっているなぁ。』 花爺は云う。
 『お〜い 釣れたかい?。』声を掛けると
 『だめですね 小さいのばかりです。

 『どう 按配は?。
 『まあまあ ボチボチです。
あっちへ聞き、こっちへと聞いて二十人以上も聞いた。
どうも今一つの様子だ。
 『だけど、入漁券を付けてた奴は三割にも満たねえな。』
 『流石に元理事、見るところが違いますね。』 感心した。
そうこうしている内に浦山ダム湖に着いた。
そして、火祭りのある長瀞へと向かった。

 長瀞の宝登山へのロープウェイの発着駅下の広場が「火祭り」の会場だ。

 何時ものようにコンビニで買った寿司折を食っていると、祭りは始まった。
 『ブッブォ〜 プップォ〜。』 と法螺の大きな音がして、
秩父盆地の各神社のお獅子を先導に衣を着た修験者達が入場して来た。
まづは、厳かな除霊の儀式が執り行われた。

 高く盛られた盛木に火が点けられると凄い勢いで炎が立ち上る。
 『ワァー プップップ けっ煙い。
風向きで煙が来て前が見えぬ、窒息するかと思った。

 やがて、火が収まって置き火のようになると
心頭滅却したらしい修験者達が裸足で心経を唱えながら火の上を渡った。
 『ワァ〜 熱そう 火傷しないのかしら。』 隣で見ていた若い娘さんが云う。
 『足の裏の皮は厚いからな、俺だって出来るサ。』 花爺は云う。
この爺は、若い女性が好きだ。
だから、若い娘さんが居れば必ずすり寄って口を出すし己の自慢をする。

 火勢が下火になって、一般の希望者の火渡りとなった。
「開運厄除 宝福招来」の御利益があると云う。
これは、是非とも渡らなければならない。
 『俺の水虫も治るのかな・・・。』 花爺は云った。
水虫と聞いて、私はこの爺の先に渡ることにした。
もう冷えていたのか、足の裏は熱くはなかった。
谿巡りをしているので、足裏の皮が厚いのかもしれない。

 それから広場の先の高みを散策した。
 『おうい 句碑があるぞ 上手いこと詠むなぁ。』 花爺が呼ぶ。
「露秩父 足もとにゐる 仏たち」と石に彫られている。

 本当だ・・・。
秩父の谿を巡っていると、足元に、草木の陰に、岩の影に、水の中に、
沢山の仏様や神々が、居るような気がする。

 こうして、長閑な春の一日を過した。

・・


                             平成十九年(2007) 春.



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