てんから庵 閑話 コオコと暖飯器と和子ちゃん


コオコ暖飯器和子ちゃ

  ※ コオコ=タクワン(何故かそう呼んでいた)

 『お弁当におコオコを持ってこないようにしましょう、皆んなが迷惑するからです。』
其の日の学級会で副級長の和子ちゃんは発言した。

 “あぁ…、俺のことだ。” とっても辛かった。
俺は和子ちゃんが、何となく好きだった。
だけど“和子ちゃんは、俺を好いていなかったんだ”と判った。
和子ちゃんと川へヤマベを釣り行く夢も、山へワラビを採りに行く夢も…消えた。
和子ちゃんは、女の皆がおかっぱ頭なのに、髪を肩まで伸ばしていた。
和子ちゃんは、誰も皆んな顔が黒いのに、白い顔をしていた。
和子ちゃんは、誰も皆んながゴム草履を履いているのに、赤いズック靴を履いていた。
和子ちゃんは、いろんな言葉の前に「お」を付けて喋った。

 家に帰ってから母ちゃんに、喚いてあたりちらした。
『弁当にコオコを入れんじゃねえよ!!』

 或る日
ついに、ついに俺らの学校に暖飯器が来たのだった。
それは学級毎にあてがわれて廊下に立ち並んだ。
寒い日は、三時間目の授業が終ると暖飯器の中に弁当を入れる。
そして、四時間目が終ると弁当の時間だ、取り出して暖かくなった弁当を喰うのだ。

 其の日もそうだった。
四時間目の授業が終ると、皆んな暖飯器へ駆け足で弁当を取りに行く。
『あっ くっせえ〜、誰だんべよぉ〜 コオコ弁当もってきたのはよぉ〜。』
『くっせ〜』  『くっせ〜』  『糞くっせ〜』 大騒ぎになった。
暖飯器の中いっぱいがコオコの臭いがした。
外にまでもコオコの臭いは漂ってきた。
“あぁ 俺の弁当だ。今朝、母ちゃんがコオコ弁当を作っているのを俺は見た。”
それでも俺は『くっせえなぁ くっせいなぁ 誰だよぉ〜』 としらばっくれて一緒に騒いだ。
其の日は俺は「腹が痛くなった」 と嘘を云って、弁当を喰わなかった。
だけど、コオコの弁当は俺のだと皆んなに判ってしまった、浅い考えだった。


 今もタクワンのことを、コオコと呼ぶのだろうか。
あの暖飯器の熱源は電気ではなかった、何だったのだろう。
和子ちゃんは何処に行ってしまったんだろう。

 みんな、思い出せない程の、遠い昔のことだ。

                               
平成17年(2005) 記.



戻 る

inserted by FC2 system