てんから庵夜話 黄金の岩魚は黄金の山に棲む


黄金の岩魚は 黄金の山に棲む
中津川水系 小倉沢支流


 約一年沙汰に黄金の岩魚に逢いに行った。

「黄金色に染まった体を持つ岩魚は、黄金が眠っていると云われる山から流れ出る谿に棲んでいる。」
その山は、岩峰である。
岩峰は赤く、夕日の中で黄金色に輝くと云う。
古来、山師が一攫千金を夢見て山中を放浪したと伝えがある。
江戸の時代には、平賀源内が金を探して廻った山域である。

その渓は伏流が続き、所々の場所にだけ水は地から湧いて溜りを作っている。
その溜りに毛鉤を振り落すと、大石の下から走り出て咥えた。
                 やはり、黄金の岩魚は、棲んでいた。
       
何故に、こんな水の少ない殆どが伏流している小谿に棲んで居られるのか、不思議だ。
下流域には殆んど水が無い。
少し上流域へ行けば水は枯れてしまう。
中流域のほんの少しの流程にだけ流れがある。
その、ほんの少しの流程に黄金の岩魚が棲んでいる。
落ちることもない、遡ることもない、水が枯れることもない。
山ノ神が、其処に黄金の岩魚を飼っている…としか思えない。
一説によれば、地下に長い水の道があるのだそうだ。 その地下水道を通って岩魚達は行き来しているのかもしれない。

               錦鯉ではありませんよ、 ほーらね、僕は岩魚です。
       

ご覧の皆様、失礼ですが。
笠原将弘氏 著の「岸谷鱗平商店」という、秩父の職漁師の一生を描いた本をご存知でしょうか。
主人公の広川長治は秩父の谿で山女魚や岩魚の漁を生業としていました。
若い頃、中津川の奥域の谿で炭焼きをしていました。其処へ松子は、凍える寒い冬に手掘りのトンネルを幾つも潜って逢いに行くのでした…ね。
そこにも、いろいろと書かれていますね。(本の宣伝ではありません) 

                                              平成十九年(2007) 初夏


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