てんから庵閑話 想い出せない女の子・・・


せない・・・

  もう五十年ほどもの前の話なのだ。

 其の頃、私は農家の二階に棲んでいた。
日暮里に棲んでいたのだけれど、東京空襲で焼け出されたのだそうだ。
戦争からの疎開と云う住まい換えであった。

 農家には馬が飼ってあった。
何頭いたのかは、憶えていない。
母屋の裏手に馬小屋があった。
その隣に藁小屋があった。

 どうも自分の性格から察すると納得できないのだが・・・、
其の藁小屋の中で、ある女の児と「オママゴト」遊びをした記憶があるのだ。
午後になると藁小屋には西日が当たった、乾した藁草の枯れた匂いすら記憶にある。
そして・・・あろうことか、
男の児と女の児の違いを確認し合った覚えがかすかにあるのだ。

 この記憶は、錯覚であろうか。
何かの記憶と入れ違ってしまっているのだろうか。

 ある女の児は小学校に上がる頃に、同じ村内の少し離れた処に引っ越した。
小学校も転校してしまった。

 今も時々は、この農家の近辺へ散歩に行く。
近代的な家に建て替えられていて、昔の農家の面影は無い。
先日のこと。
其の頃に近くに棲んでいた、エイコばあさんと偶然に道で出会った。
『子供の頃はよく二人で遊んだっけね、お互いに歳をとっちゃいましたねぇ。』と云う。
『!!・・・・。』
この人だったのだろうか、「オママゴト」をした相手は。
私は、できたなら可愛いかったカズコちゃんであって欲しいと思っている。


 遠い記憶は、蘇がえらないほうが幸せのことも多い。
でも・・・、“カレーライスを初めて食べたのが何時なのか・・・”
と 同じくらいに、想い出せない。

                               平成17年(2005) 記



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