てんから庵閑話 俺らの山はでっかい・・・


らのはでっか・・・、


 憶えていますか
もう 忘れちゃったでしょうね。

 あれは 小学の二年か三年の時でしたね。
夏休みにバスに乗って学年の皆で海に行きましたね。

 そうでした・・・ お弁当は たしか さつま団子でしたね。
俺の家は 鶏を飼っていたから ゆで卵も持っていたけど
でも ゆで卵をバスの中で食うとね
酔って青い顔になって気持ち悪くなって 吐いちゃうんだョ 母ちゃん。

 昔の江ノ島の海はね
夏でも人が少なかったんだ。
俺はね
白い野球帽をかむってね
バスの窓から海を見たんだ
初めて見る海はね
松原の向こうにね キラキラ光ってた
“でっけえなぁ”って思った。

 そしてね
皆んなで 唱を歌ったんだ
その日に歌うようにって 音楽の中村先生が教えてくれたんだ。
「我は海の子白波のぉ〜 騒ぐ磯辺の松原に〜♪」ってね
可笑しいよね 俺らァ山の子なのに。

 それでね
海から帰る途中にね
日の落ちる方の遠くに とても大きな高い山が見えたんだ。

 俺らはね
「俺らの山が見えるどォ 俺らの山だ やっぱでっけえなぁ〜」って騒いだんだっけ
俺らの山は でっかくって 高くって 「すげーなー」 って皆んな得意だった。
俺らは 俺らの山に 俺らの川が 日本で一番 と思ってたんだよね。

 ずいぶん前のことだから
皆んな もう忘れちゃったでしょうね。

(今 考えると 俺らの山は奥武蔵で標高が三百bとチョッと、
俺らの山と思って騒いだのは 大菩薩嶺だったんだよね。 違ったんだよね)


                           
平成11年(1999) 記



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