てんから庵 閑話 下界は暑い! リゾの蛇岩の瀑で涼む。


下界されば蛇岩ゾリ 中津川水系 広河原沢


 梅雨が遅くに明けたと思ったら暑いこと暑いこと。
毎日、気温は35℃を越えているのだから辟易する。
年寄りには辛い、熱中症で死ぬることだってあるそうだ。
気をつけねばならぬ。


 されば、奥谿へと涼みに行かふか。
何処へ行かふか、休日は浮世の人共が束の間の自然と喚き騒いで鬱陶しい。
そうだ、中津の支流は広河原沢の源流へと行こう。

 涼しい、なんとも涼しい・・・。
此処は、蛇岩ゾリの瀑と云うそうだ。
なんとも奇怪な様相の処である。
12m程の三条の滝、奥に10mの滝、そして更にその奥にも滝。
一つ目の滝と二つ目の滝との間は皿のように凹んでいて、
右の高みからは長い長い滑の急斜で水が轟々と注ぎ込んでいるのだ。
しこうして、回り三方はグルリと屏風の様な岩壁なのだから異様だ。
人の踏み跡は全く無ひ、果たして何人の人がこの珍奇な風景を眺めたことだろう。
その昔には、風来僧が滝に打たれて修行をされたとも聞く。
思うに、修行と云いはって涼んだのではあるまいか。

 それにしてもリゾの岩蛇とは、何やら恐ろしげな呼び名だ。
一帯は岩盤で、高みに登って眺めれば。
見上げる高稜は岩峰だし、見おろす谿は岩溝である。
山尾根一帯に岩が露出して、蛇がトク゜ロを巻ひている様からの名であろうか。

 “ううむ 何といふ涼しさだ。浮世の外の別天地だ。”
“しばし昼寝を…と思ったが、顔の周りを目呪いが飛び回って眠れぬ。”

 不思議のこと。
この水量の流れが、瀑の直ぐ下で地中に消えてしまうのだ。
岩に耳を付けると、何処やらで轟々と水の音が聞こえる。
そして、暫くの下で「オマタセしました・・・」と突然に水は噴出すのだ。

 狭隘な流れには、貴重な定岩魚が岩蛇に守られて棲んでいる。
迂闊な奴が一匹、嘘の作り虫に飛びついてしまった。
“この慌て者め!”


 帰りの秩父の里の暑いこと暑いこと暑いこと、閉口した。


                           
平成十八年(2006) 夏.


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