てんから庵閑話 シマッタ…彼の爺には万ず勝ってはいけなかったのだ


シマッタ・・・彼にはってはいけなかったのだ、  大血川水系 本谷


随分と若い頃の坂爺
 春とはいえ 此処のところ、ばかに寒い。
今日もまたそうだ、北海道では雪が降ったと云う。

坂爺と釣りへと出かけた。
天気が今一つなので近場の渓流へと降りた。
水は、冷たかった。
“これじゃ山女魚の野郎も出ないナ。” 思った。

暫くして 『オォ〜イ、杣さん、何ぼ釣ったぁ。』 と聞く。
 『山女魚が、四匹だ。』と答えた。

 『オォそうか、此処は放流しているからなぁ。放流物なんぞ、幾ら釣ったって
何ぼのモンでもねえ。寒ぶいから、上がりだ上がりだ』 と不機嫌に云う。
 “・・・??” 何か言葉にトゲがある。
 『坂さんは、釣ったかい?』 と聞けば。
 『俺ぁ 釣ってねえよ、俺ぁ竿を出してねぇ。』
 “??”

シマッタ、坂爺さんは、私より少ししか釣れていなかったのだ・・・。
そうだった、この爺さんには、万に勝ってはいけなかったのだ。

帰りの途々『放流物はな、バカだからな、腹ッぺラシだからな。
子供でもな、バカでもな、釣れるんだょ。』 と繰り返し繰り返しに云う。
 『そうかい、そうかい』 としか云いようがなかった。

やはり、釣りは単独行に限る。
気を使わなくてもすむ。
でも、古礼沢の滑床を行くと、豆焼の大滝を眺めてひると、気狂ひしそうに寂しくなる。

 “時々は、こんな我慢の釣りもいいか。”思った。


                       平成15年(2003) 春.

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