てんから庵閑話 我ら爺は、胡乱な妖怪か・・・、


 胡乱妖怪・・・  入川水系  


 爽やかな初夏、我ら爺達は入川の上流を釣りして歩いた。
疲れ果てての帰り、入川の管理釣り場の処を通った。

東屋の休憩処に、ショートパンツの若くて可愛らしい娘さんが二人居た。
我々一行を見て 『コンニチワ〜』 と笑顔で声をかけてくれた。
はちきれそうな白い太モモが午後の陽射しに眩しい。
すると、傍に居た男がシゲシゲと我らを眺めて、『シーッ 声をかけるんじゃないョ』 と小声で云う。
連れの男は、我らに嫉妬心をおこしたのに違いない。

 歳は喰っているが、我々だって満更じゃぁない。
しかし・・・。若くて可愛いらしい娘さんは、
今一度我らを見て目を宙に躍らせて 『ソウネ ソウネ』 と頷いている。
そして、二人手を取り合って、そそくさと逃げるように谷へ降りて行ってしまった。

 我らは、そんなにも胡乱なのか・・・。
 我らは、そんなにも奇怪なのか・・・。
 我らは、既に妖怪じみているのか・・・。
 我ら爺は皆、悄然としてしまった。

我らは、下の食堂でウドンを啜りながら、反省の会を開いた。
『クマ爺の、捻り鉢巻がいけない』
『坂爺の、農協の古い帽子がいけない、それに古い富士登山記念の杖がまずい』
『いやいや、花爺の、ボンタン作業ズボンがいけない』
『そもそも、皆の履いている地下足袋がまずい』
『そもそも、皆の腰にぶら下げた、ショッパイ手拭がいけない』
議論、課題は当に百出した。

最終の決議は、
『女子にも好かれるよう、今少し身綺麗にし 清潔感を保つこと』 と決まって、ウドンを啜り終えた。


次に皆に逢ったとき、誰も少しもその姿は変わってはいなかった。

 山釣りは何よりも、効率的で効能的でなくばいけない。
服装も地味でなければ、岩魚は聡いから岩の下に隠れてしまう。
第一に、女子を釣りに山谷へ行くのではないのだ。
それに、我々は既に爺だ・・・、が 色気は何時になっても治まらない。
人の性は恐ろしいものだ・・・。 
色即是空・・・ 色即是空・・・。


                                    平成15年(2003) 初夏.



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