てんから庵夜話


爺達熊除けのは・・・ 其の二



 此処の処、熊の出没がつとに騒がしくある。

 熊は恐ろしい、叩きのめされた己が姿をつひ想像してしまう。

 群馬の親爺様は、“森のクマさん”を唄うのだと云う。
『あるゥ日ィ クマさんと・・・タンタンタン♪ 出合った・・・タンタンタン♪
・・・ラララランランララララララララ〜♪』と唄うのだろうか。

 吾らを思い巡って愕然としてしまった。
仲間の某爺の熊除けの唄のなんたるかを・・・。

 或る時、入川の左岸の支谷の金山沢奥へと向かった。
曲沢を横切った頃のことである。
突然に、彼の某爺は大声で唄い出した。
『ひとつ出たホイのヨサホイのホ〜イ 一人娘とぉ・・・♪』
彼の爺の欲望が突然に昂じてしまったのかとさえ思った。

 『どッどッ どうしたのだ?!』聞けば
『何か唄え早く!早く!、熊の匂いがするッ!、デカイ声でェ!』云う。
『マッ 貧しさに負けたァ〜♪ イイエッ! 世間に負けたァ〜♪』
“昭和枯れススキ”を唄ってしまった。

 なんと、なんと吾らは心寒くいと寂しいのだろう・・・。
熊除け唄のレパートリーを広げねばならない。
近くに誰か居たとしても、恥ずかしくない健全な唄を・・・。



                           平成7年(1995) 記

                大久保林道を行く爺達



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