てんから庵閑話 復刻、堀越康吉毛バリ


復刻、堀越康吉 毛バリ






 私が釣りの尊師と仰ぐ堀越康吉氏と出会ったのは、昭和六十年は初夏の入川でのことでした。
その頃の入川に沿う森林軌道途は今のように整備されていなく、
所々で山側から土砂が押し出し、軌道レールの朽ちかかった枕木を足元を気にしながら踏んで辿ったものでした。

 四十年近くも奥秩父で職漁師を生業としてきたと云う氏は、この時には既にご楽隠居のお身でした。
氏は毛バリ釣を 「てんから」 とは呼ばずに 「オッタタキ」 とか 「フットバシ」 と云っておりました。
此の地では毛バリ釣りをその様に呼んでいたのに違いありません。

 老爺の釣りする姿を見て仰天したのでした。
釣り様は実に忙しないもので、毛バリを的確に岩魚の付き場に振り込んで、
三ッと数えぬ流れる暇間もなく毛バリを振り上げるのでした。
そして、何度かに一度は岩魚が見事に水面から飛んで宙に舞うのでした。
正しく「叩き釣り」なのでした。

 使う毛バリは何時も一種類だけでした。
そんな堀越康吉の毛バリを思い出して巻いてみました。

  ・ハリは八号程の大きさで返しを潰してありました。
  ・下巻きは赤の絹糸で巻き
  ・胴は黒の絹糸で細身に巻く
  ・尻は赤絹の下巻きを覗かせて
  ・蓑毛はチャボの首毛を背負わせ
  ・腹毛はチャボの首黒毛を抱えハリ先を隠す
  ・頭は赤巻き頭としていました。

 当時のメモを見、思い出して巻いてはみたのですが・・・何処となく違うような気もしてしまいます。
もっと大雑把な感じでしたが、もっと味わいがあったように思えます。
 (氏のハリに目は無く下巻きの赤糸を環に作ってありました)
すべからくに、遠く及ばぬものの氏の毛バリ釣りは私の岩魚釣りの原点のことに違いありません。

                                            
平成十八年(2006) 春.記


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