漂泊の記 川浦谷の七つ瀑を巻いて、

安谷川水系  川浦谷いて



これから向かう山が幾重にも重なった狭間の川浦谷を
ゲート手前の林道から望む。

これから向かう谿の通ラズを高巻く杣道の難儀さが思いやられる。

安谷川の上流、林道が離れシアン沢を合わせると川浦谷は悪絶な様相を呈する。
故に杣道は本谷の左岸高くにシアン沢の上流を越えて巻き行く。
辿り行けば・・・、 耳を澄まそう 其処此処に 古の杣人の 吐息が聞こえる。

谿の中流域左岸高くの林道を行くとゲートに行き着く、先に10分程も歩けば営林小屋の在る広場、そして右岸から烏帽子谷が合わさって林道橋。
川浦本谿に降りれば間もなく峡間のゴルジュが始まってシアン沢が左岸から出合う。ここからが壮絶、両岸絶壁の峡間、沢屋さんも窮して巻き避ける。
迂闊に突入するのは止めましょう。心得あって遡ってもシアン沢の出合いまで、シアン沢を捩り登って大高巻きすることになりましょう。

林道の止めゲート 

 安谷川下流の左岸に沿う秩父林道。
此処は林道のゲートの場、林道はまだ続くのですが一般車は此処で
止められます。
が、二台も停めれば満杯です。
林道の車止めゲートから安谷川の谿声を聞きながら続く林道を歩くと開け
けてきて広場、前方に営林署の作業小屋が見えてきます。


 営林署小屋の直ぐの手前に山ノ神が祀られています。
きっと奥へと向かう杣達が今日一日の山仕事の安全を祈ったのでしょう。
この社の脇から沢又沢の左岸に沿って上がる川浦谷の上流へ向かう
杣道は始まるのですが、少し先の営林小屋を過ぎ危険物倉庫からも
踏み跡が薄く踏まれています。

 杣道は急落した沢又沢沿いに上り、かなり高度を上げた滝場の下で沢
の対岸へと移り渡っています。この辺りの谿は伏流していますが上流を
上で再び水流は復活していて滝を架けて急斜に駆け上がっています。
広々とした空間は、これからの難儀な道のりを前に一休みに格好です。

 危険物倉庫裏手からの踏み跡を辿るなら、僅かな踏み跡で山の斜面
に取り付くのです。
道は谿から離れてジグザグと高く高くと続き喘ぎながらに登るのです。
やっとに高み登れば大岩が在り此れを巻いて杣道はやっとに山ノ神から
登り来たよく踏まれた杣道に出合って上流に向って続いて行くのです。
 

杣道の渡る沢又沢

岩壁の中途に架かる木梯子橋を渡る
 
振り返り見れば登り始めた谿は遥かの足下で少しも上流に進んでいません。
対岸を望めば、烏帽子岩と呼ばれる岩峰が同じ高さの横並び、随分と高く
上りました。

暫く辿れば高い岸壁の岩場の腹、杣道は此処にハシゴ橋を架けて渡り抜け
るのですがとても高度感があって恐ろしい処です。
踏み外すさぬよう慎重に渡り終えると山抜けの大崩落、此処の崩落が下の
谿を埋めたのです。 
何時もカラカラと落ちるガレに肝を冷やしながらなんとか辿り行くとガレに押
し潰された廃小屋があってシアン沢の源頭です。
シアン沢はこの辺りから水流が始まっています。
原全教の「水ッパ」とあるのが此処でしょう。
谿は、ガレ気味の急斜に滝を連ねて川浦本谿へと流れ下っています。
 
シアン沢の源頭を後にして進み行きます・・・。
暫くしてまたも大崩落跡、削げたガレ斜面の最上部を横断する。 
滑れば遥かの下へと落下、高度感があってとても恐ろしいのです。

 歩き行けば急斜な幾つもの滝を連ねた美しい谿のワサビ沢に着く。
道は薄い踏み跡の分岐、この踏み跡は絶悪な場をすぎた本谿を渡っ
て対岸へと向うのだが今は使われていないようで踏跡は無く本谿に架
かる木橋は既に朽ちている。
本谿へ降り立てば滑メが発達していてとても美しく流れには赤い岩魚
達の慌てて逃げ込む姿も見える。

 杣道へと戻れば、道筋は平坦で楽。本谿が近くに沿うようになる。
滑メが終わると水量比1:2程度での二俣。
本谿は右俣でグイと右に曲がって滝場。
そして、幾つもの滝を架けて上流へ向い峡間の中に中滝に大滝を連ね
構え越えると源流の姿となって更に水量を減らし乍上っているのです。
其処にはスズタケと石楠花が密生して杣道は細く踏み跡を薄くして谿
の左岸に沿って更に更に上に向かっているです。


 
此処 安谷川の上流の川浦谷谿を遡るのはとても危険です。
黒岩の両岸絶壁、谿中には幾つもの高瀑、そして山抜けの大崩落、
人呼んで七ッ瀑の悪場と…迂闊に入るのは避けるべきです。

杣人達は難儀を避けて 高く高くのこの途を辿り静かな奥地へ向った
のでしょうか。
辿り行けば 耳を澄まそう潰れた廃小屋や崩れた炭焼きの石積みに
古え人達の吐息が聞こえてまいります。


                   平成8年(1996) 春.

二俣奥の3段10m滝
更に向かえば、谿は狭まって幾つもの滝を構え、大滝も近い。


(逍遥 時間)   林道の車止め〜営林署小屋=10分  営林署小屋〜シアン沢源頭=1時間30分  シアン沢源頭〜3段滝=1時間

(帰途 時間)   3段滝〜営林署小屋=1時間30分

(追 記)
・近年は、シアン沢までに至る杣道の木梯子橋は朽ち果てて更な大崩落で欠落し渡ることは常人では無理のようです。
 木桟橋部の岩壁を捩り通るは難しく、本谷の“七ッ瀑の悪場”を抜くのも此れまた難しい、釣り人の装備では危険に過ぎます。
 上流へ向うなら、川浦谷を進みシアン沢の出合いから沢に絡んで登り水流の消える辺り(水ッパ)で横切る杣道を使って上流へ向いワサビ沢を過ぎ
 てから本谷へ下りるのが良いでしょう。
 なにせ川浦谷のシアン沢出合い先は険谿(特に七ッ瀑の悪場は)です、充分に気をつけて下さい。
 古今、滑落・転落・道迷いなどの事故のたいへん多い処です。

 また、向う秩父林道も手掘りトンネル先は豪雨後などには山側が大崩落したりしてトンネル手前に一般車の止めゲートが設けられたりします。

                                                                     
平成18年(2006) 秋.



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