漂泊の記 釣り人の銀座、森林軌道途を辿る


入川水系  釣人銀座途 入川森林軌道本線辿



入川沿いの森林軌道途(股の沢林道)
昭和の20〜40年の頃 伐採材木を載せたトロッコが走っていたのです。
この途は釣り人達の銀座道、不思議なこと登山者はやけに陽気で 何故か釣り人は寡黙で・・・。


入川の下流に沿った此の途は、昭和の中頃に上流の伐採した木々を運んだ森林軌道途、時は流れて 今は釣り人の銀座途。

入川渓流観光釣り場(管理釣り場)
 国道140号は川又の名の在、此処で本谷の入川に滝川が合わさって
荒川の名は始まる。入川・滝川ともに流れは同格、どちらが本谷とも判じ
難いのですが其の源の標高から本谷は入川となっているのです。
国道を分岐しての入川沿いの林道を向かうと“夕暮れキャンプ場”がある、
林道はすぐに“入川管理釣り場”に入ってしまうので道幅の広くなった処へ
邪魔にならぬよう駐車します。
身支度を整えて、 さて・・行けば“入川管理釣り場”の施設、入り口に人
間の遊びに命を失う渓魚達をを弔う 高い“供養塔”があって 人間の身勝
手さが侘びしい、せめてもと道傍に咲くの花を手向けるのです。
 管理釣り場には竿を持った家族連れでシーズン中はけっこう賑わう 作ら
れた渓流に飼育されてきた渓魚達、それでも四周は大自然の中 良い想
い出となるに違いない・・・。林道は更に流れに沿って上流に向かう、一帯
は東京大学の演習林で一般車は入れない、入川の渓相は良く谷巾も広
いが上流の取水堰で取水され水量は心許ない この辺りは山女魚と岩魚
の混棲で魚影もある、谷巾が有るためかフライの釣り師が多く見られます。

 まま・・・先を急がねばなりません。

 林道では シーズンはけっこうに人と行き交うのです、登山者は陽気で
“こんにちは、釣りですか・・・”などと声をかけてくるのですが、釣り人は何
故か寡黙で 目だけで挨拶をするのです・・・それで良いのです。
 20分程も行くと小さな橋、覗けば木々が繁って 峪は水量少なく落ち込
みのゴーロ 此処は矢竹沢の出合いです、下流は山女魚との混棲ですが
上流は岩魚のみの静かな小峪です。
 矢竹橋の少し先で林道は入川から離れて高く上ります、此処から林道と
分かれて入川の流れに沿っての森林軌道途を辿るのです、古い軌道レー
ルの残った峪沿いの途は 気持ちの良い 釣り人達の途 そう入川の源流
を目指す“釣り人達の銀座”でもあるのです。

 まだ見ぬ源流域に想いを馳せて勇み向かう途。
疲弊しながらも 心には奥域の自然をいっぱいに詰め込んで帰る途・・・、
そうなのです そんな途なのです。


林道の分岐(矢竹沢先で林道と別れ 下れば森林軌道途)

餌釣り人
 平坦で歩き易い途です 鼻歌まじりに入川の流れを眺めたり 途横の岩
壁に咲く岩タバコの小さな花を愛でながら歩きます。
20分程も行くと小峪が滑の急斜で出合います 小赤沢谷です、此処の峪は
魚は棲んでいません、少し水量が足りないのでしょう。
 この辺りからの入川の流れは とても心細くて渇水期には流れも途絶え
てしまうこともあるのです、そう 直ぐの上流に堰があって取水されているか
らです、取水された水は 滝川との出合い上に在った発電所に送られてい
るのです。

 「ホホゥ 」 谷に お若い釣り人が一人居りますね、餌釣りの方ですね。
沈み石のへチのポイントを静かに流しています。
“オッ!” アタリがあったよう、すかさず合わせをくれましたが・・・残念です
大物だったのでしょうが・・・。

 取水堰が見えてきました、山女魚の棲むのも此処までです。
管理釣り場の終わりから ゆっくりと釣り遡ると丁度一日分でしょうか そこそ
こに魚影もありますし 先行者が少なければ難所も無く のんびりと渓流釣
りを楽しむことができます。そうそう 気を付けぬといけないことがあります、
此処で釣りを終えて谿を離れる時 堤防側へ登りますが 草むらに夏場は
ヘビがとても多いのです 踏まぬように充分に注意せねばなりません。

 取水堰を過ぎると 入川の流れは一変して水量多くして淵や釜も深く蒼く 
豪快です。岩魚達の躍動する息ぶきが感じられてまいります、此処からが
本来の入川なのです。


取水堰上の本来の入川の流れ

森林軌道本線の終点(大赤沢谷の出合い)
 取水堰を見送って暫く 森林軌道途は 大岩を流し押し出した谿に行き
当ります 大赤沢谷の出合いです。

 今日の辿る軌道途は此処で終わりとします。この先にも少し伸びているの
です、本線は大赤沢谷の対岸へ でも直ぐに終わってしまいます、支線は
大赤沢谷の右岸に沿って中流に出合うモミ谷にまで僅かに認められます。
此処は少しの広場になっていて道標や木作りのベンチもあります。
入川に大赤沢が流れ込む処を見下ろすように「荒川起点」の碑が設けられ
ています。“此処が荒川の名の始まりなの?滝川との出合いじゃないの”と
不思議に思います。
そう云えば滝川の豆焼沢との出合いにも起点の碑が建っていました。
きっと何らかの約束事があるのでしょう。

 さて・・・、一服・・・、 腹ごしらえして貴方様は何処に向かいましょうか。
本谿を進むもよし、大赤沢谷を遡るもよし、それともこのまま股の沢林道を
行きまして奥域へとまいりましょうか・・・。

 今日の私は あと3時間ほども歩きましての先 柳小屋を今宵の夢宿に
するつもりでございます。


                    平成8年(1996) 初夏.


(逍遥 時間)         入川管理釣り場〜林道の分岐=20分           林道の分岐〜終点(大赤沢谷)=60分

(帰途 時間)        終点(大赤沢谷)〜入川管理釣り場=60分

追 記
  昨今の軌道途は随分と変わりました。道巾は広くなり軌道線路も取り外してしまいました。危なげだった木梯子橋も鉄製に変わりました。
      歩き易くなったのでしょうが、そのぶん趣も消えゆくように思います。これもまた、時の流れでしかたのないことなのでしょうか・・・。
      最近は此処、軌道途を歩くツアーも組まれているそうで、刻は変わりました。
                     
                                                                          
平成20年(2008) 初秋.



管理釣り場入り口にある 「渓魚供養塔」
もしも 貴方さまが ほんの少し自然の恵みを頂戴したなら・・・、また 誤って殺生してしまいましたなら・・・、
花を手向けるなり して 貴方が消し去った命に 手を合わせ供養したいものです。



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