爺 漂泊の記 森林軌道支線を辿る
入川水系筋 入川森林軌道支線を辿る
軌道跡は処々に 其の面影が薄れて・・・(昭和の時代は すでに遠く)
森林軌道の本線は大赤沢谷の出合い迄、大赤沢谷沿いの支線を終点のモミ谷まで辿れば、今は“釣り人達”だけが通う道。 | |
森林軌道本線の終点 大赤沢谷の出合いにある休憩処、 |
少し遅い朝食を食べよう、テルモスのコーヒーはまだ直ぐに口を付け られぬ程に熱い、直ぐ前の入川の流れも朝の光を映しているうちに。 今まで 独りの若い釣り人と語らっていた。 彼は、此処から入川の本谷を金山沢の出合いまで遡るのだそうだ。 腰にカラビナやエイトカンにザイル、赤いヘルメットを背負っていた。 『親父さんも地下足袋ですね、僕もです』と笑った。 『また、何処かでお会いしましょう・・・お気おつけて』 と言って、彼は谿に降りて行ったのです。 途中のあの深い大淵を、あの流れいっぱいの峡間を、どの様にして 突破してゆくのだろうか。きっと「いいぞ いいぞ」と独り言を呟きながら 一歩一歩と越えて行くのに違いないのです。 さあ 出掛けよう・・・。今日は 大赤沢谷の奥域の岩魚達に逢いに 行くのだから。きっと無事に冬を越して元気にしていることでしょうから。 |
大赤沢谷に沿った道を少し登れば吊り橋がある。この辺りの大赤 沢谷はかなり悪い、上流の大石を押し出しての瀑流帯だ。 渡る吊り橋は立派だ。橋の直ぐ上に小滝の釜があって岩魚が棲んで 居そう、でも…此処には居ない、きっと誰もがそう思って覗くのだろう。 この谿を遡るときは、この橋の袂から降りる。すると、暫くの間は峡間 の中に小滝が連なっていて抜けるのに難渋もする処なのです。 吊り橋を渡ると、じぐざぐの九十九折れの急坂になって足弱の私に は何時も辛いのです。何度も “もうどの位登ったかな 後どの位かな” と登るのです。後ろに甲武信へ行くのでしょうか見えなかった登山者 に『こんにちは・・・』と挨拶されて追い越されます。 『やぁ こんにちは』と答えて、其のときには景色や木々を眺め休んで いるフリをするのだけれども。 |
大赤沢谷を渡る立派な吊橋 谷への遡行はこの橋から始まる、 |
十文字峠への分岐 股の沢林道は此処から分かれて柳小屋へ、 |
やっとに急坂を登りきれば、道は平坦になって大赤沢谷の流れに沿っ て上流に向かっています。 やがて 道標が見えてきて林道の分岐、股の沢林道は此処から更に登 ってから柳小屋を経て十文字峠へと向かうのです。 入川の奥域の股の沢や甲武信からの真の沢を辿るお馴染みの道筋です。 今日は此処を真っ直ぐに続く杣道を行く。 道は少し心許なくもなったが踏跡はしっかりしている。 此の道は森林軌道の支線で今はレール跡は殆んど見あたら無い。 今は、大赤沢谷を遡行した釣り人達が通うだけなのでしょうか。 |
杣道はずっと平らで歩くに楽だ。道は小沢を少し迂回しつつ大赤沢 谷に近づくと谿向こうは赤木谷の出合い。本谷は下流部の難儀な峡間 を過ぎて落ち込みを連ねた穏やかな流れ、この辺りは昔は赤岩魚だけ の谿でした。今は、如何したことか他県産岩魚との混血種域。 入川からあの瀑流帯を遡上できる筈もなく、愚かな者が放流したに違 いなく、もう元に戻れることはありません。 酔狂な自己満足で自然を愚弄するその罪は大きいのです。 行く手の山側に古い石積みが沢山見えてきます。 古は、森林軌道への落石を防いだものなのでしょう。 道の其処此処に軌道レールの残骸のあるところです。 突然に開けてガレ場に出る。此処を横切らねばならないのだが直ぐの 上に二抱えもある大岩があって、クシャミ一つで転がり出しそうな按配 風でとても恐ろしく抜き足差し足で抜けなければなりません。 暫くしてまたも崩落の場所、此処はガレを谿に落とした大崩落です。 此処は、転び落ちぬよう一足一足を注意して歩まねばなりません。 |
軌道から眺める大赤沢谷 落ち込みを連ねて穏やかな流れ、 |
軌道支線の終点地 此処は大赤沢谷の中流部 モミ谷が瀬で注ぐ、 |
大崩落の場をやっとに越えて谿を見れば穏やかな瀬で小川の様、その 中に左岸から白泰沢が瀬で注ぎ入ります。 小沢が降りてきていて古い軌道橋の跡があります。左手上に廃小屋、小屋 の周りには空の一升瓶が沢山に転がっています。昭和の中頃までに使われ た伐採小屋では必ず目にする風景です。 家を離れての山の中、昼間の力仕事を癒す焼酎が “カアチャン ワラシ”を思 い出す糧だったのでしょうか。 杣道が本谷の流れに近づいて来ると小谿が横切ります。モミ谷です。 森林軌道は此処が終点なのです。 此処の辺りの大赤沢谷は惨めです。伐採で谷は荒れ砂礫で埋まって広い 河原です。渇水期には伏流してもしまう処なのです。作業小屋に住まった 人達が木々を切ってはトロッコに乗せてで軌道を運び降ろしたことでしょう。 河原の只中に座っていると、昔の人々のざわめきが聞こえて来るようです。 さて・・・、今日はこれから もつと奥の流れに棲む岩魚達に久しぶりに逢い に行こうと思います。 平成9年(1997) 初夏. |
逍遥 時間 本線終点の休憩処〜十文字峠への分岐= 30分 十文字峠への分岐〜支線の終点(モミ谷の出合い)= 1時間 |
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帰途 時間 支線の終点(モミ谷の出合い)〜十文字峠への分岐= 45分 十文字峠への分岐〜本線終点への休憩処=
20分 ※ 森林軌道本線終点の休憩処までは 別ページ【釣り人の銀座途 入川森林軌道本線を辿る】をご覧下さい。 |