漂泊の記 黒岩から滝川を眺める


黒岩尾根黒岩から滝川奥域める


本来なら黒岩尾根伝いの古の匂いのする旧道を辿りたかった。 秋の陽は暮れるのが早い、滝川面の山腹を行く新道を辿ってみることにした。
 今は十月の中旬、里は彼岸花も咲き終えて初秋といつたところ。

国道の豆焼橋の袂から分岐して出合の丘に車を停める。
釣りシーズン中は駐車しいる車も多いのだがもう禁漁期、
一台も停車していない。

午前九時、以前に谿遡行した滝川の源流域や豆焼沢の上流を
高みから眺めてみようと身支度をして出発した。

赤い豆焼橋から豆焼沢の上流を望めば、黄色い雁坂大橋が見える。
国道は奥秩父トンネルを出てこの橋を渡り直ぐに雁坂トンネルに潜る。
ほんの束の間だけ豆焼沢の谿間が見えるわけだ。
文明の利というものは谿を渡り山を越えて甲州への途を辿った古の人々
からみれば、まさに利便ではあるが自然
を感じて感慨する機会を減らしてしまったとも云えるのではなかろうか、
ある意味、不幸である気もする。
豆焼橋を渡り国道から分岐した林道を辿ると二十分程で終点の広場。

此処から山道に入る。
少し行けば山道の分岐、道標が立っている。
雁坂小屋へ6.4km・豆焼橋へ1.8kmと書かれてある。
右手の折れて上って行くのだが、真っ直ぐに行けば滝川の中流の
釣橋小屋(今は倒壊している)へと続いている滝川をもっぱらとする
釣り人にはお馴染みの杣道だ。
昔は滝川の対岸の沢小屋沢からの道筋があって九十九折の八丁坂
と称して此処に登り至り八丁ノ頭(1828m)へと再び登り上がって黒岩
尾根伝いに雁坂へと辿ったのだそうだ、今は新道が切り開かれて尾根
の南面を迂回している。
本来なら尾根伝いの杣道が趣がありそうで、途中に忘れ去られたように
山ノ神も祀られていると聞く。
古い杣道を逍遥するのは後日の楽しみとして新道を辿ることにする。
遥か下方から滝川の瀬音が風に乗って遠く聞こえる。
幾らかの登りがあって「あせみ峠」というベンチの在る休憩処に着く。
道標を見れば、雁坂小屋へ4.9km・豆焼橋へ3.3kmとある。

標高が高まったのか周囲の木々に紅葉が始まっている。
風が吹き渡って心地よいのだが眺望はきかない。
人っ子独りいない此処、暫し休憩として汗身?を安らげることにしよう…。

途は尾根の南面を延々と廻り込んで辿る。
此処は三本桂沢の源頭部らしく、丁度黒岩への中間の辺りあろうか。

木々を透かして滝川の対岸の唐松尾山や笠取山は望めるのだが眺望
はよくない。
やはり古の杣道を探し辿って八丁ノ頭へと尾根筋を行くべきだったと後
悔もする。
「ふくろ久保」と記された道標の立った処を通ったのが正午丁度だった。
標には雁坂小屋へ2.9km・豆焼橋へ5.3kmとあった。
高度が増す程に木々の紅葉は進んで対岸を透かし見れば山稜に向か
って深い山襞がある、あれは古礼山(2112)と古礼沢に違いない。
“そうか、あそこがS字の峡間であのへんが8b滝の辺り・・・”
水晶谷との出合いに一夜を過ごして魚止メの滝を目指して難行した一昔
前が想い出される。
木梯子橋を登ると、もう一つ木梯子橋を登る。
「黒岩展望台」への分岐の道標がある。
急斜を木々の根元に掴まりながら五分も登ると岩峰の上に着いた。
展望台とあるが黒岩と呼ばれる岩峰の突端である。。

風中りがよく転び落ちぬように岩に縋って四周を眺める。
流石に見晴らしが良い。


北面を眺めれば・・・
 突出し尾根の高陵、真下に豆焼沢の谿筋が一望に望める。


東面を眺めれば・・・
 将監峠から続く唐松尾山・黒槐ノ頭・笠取山・雁峠へと続く。
 その高陵から派生した尾根を分けて槙ノ沢・熊穴沢・ブドウ沢・古礼沢
 指を折って数えることができる。

南面を眺めれば・・・
 雁坂峠に続く水晶山、そして二俣からの本谿が割って遡る。
 丁度此処の下が遡行に窮した面蔵ノ瀑のあたりであろうか。

西方を眺めれば・・・
 これから尾根伝いに続く雁坂峠への途。
                    平成18年(2006) 秋.

逍遥時間
  出会の丘〜林道終点の広場=20分   林道終点の広場〜あせみ峠=1時間30分   あせみ峠〜ふくろ久保=1時間15分
        ふくろ久保〜黒岩=1時間

帰途時間  黒岩〜ふくろ久保=45分    ふくろ久保〜あせみ峠=45分    あせみ峠〜出会の丘=1時間



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