爺 漂泊の記 奥秩父林道から股ノ沢金山を目指したが
中津川水系 大河俣沢を巡る奥秩父林道 其の二
(武田家の股ノ沢金山を探査しようと奥秩父林道から向ったのだが・・・)
※此の概念図は前回(平成十三年)のものを使っています。 |
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釣りも禁漁期を迎えて間もなくの初秋。 この日の奥秩父行は、荒川林道を探査しに行こうか…、 それとも釣りシーズンの終わった今にジックリと武田の股ノ沢金山跡を歩き回ろうか…、迷っていた。 当日の朝早くに目が覚めると当然のように、金山跡の探査にと気持ちは決まっていた。「金」という欲望の魅惑の一文字がそうさせたものであるらしい。 天気予報によれば、「日中は晴れ、午後から大気は不安定で山沿いは雷雨も…」であった。 |
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秋の日の出は遅い、やっと朝陽の射し始めた頃、 奥秩父林道の入り口に着いた。 入り口には交通規制の看板が立っていてロープが張ってある。 身を乗り出して北面を眺めれば、真下に金蔵沢の左俣の切れ込みが真下に 深く鬱蒼として物凄い。 此処の下は左俣奥の岩壁から落ちる30b瀑の辺りであろうか。 |
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陽の当たる斜度のない林道を行く。 自然を損なう林道は嫌いだけれど、ここ奥秩父林道は歩いて心地よい。 “今日こそは、金塊が・・・”と嬉しい予感に鼻歌すらもでてしまう。 行く手の大河俣沢の源頭は、 十文字山で詰めると十文字小屋の辺りに登り上がるのではなかろうか。 十文字峠に連なる山々の間の奥に大山が望める。 大河俣沢の右俣の源流域はガレて伏流しているが林道上で水は復 活して美事な細滝を構えている。 |
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振り返り見れば 遥かの遠くに両神山の尖り立った山容が見える。 まだ水量のある大河俣沢の本谷をコンクリート橋で渡る。 岩魚は棲むか…と落ち込みの溜まりを覗いてみたが、 最早棲んでは居ないらしく気配はない。 |
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林道は開削した岩壁の中を通り行くようになる。 落石に要注意だ。 |
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大河俣沢の左俣の白岩沢を「しろいわ橋」で渡る。 覗き込めば、目の眩むような岩峰が立ち並び断崖絶壁だ。 前に谿を遡って来て撤退したことがある、此処まで来なくて正解であった。 とても登り上がれるものではない。 |
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この辺りが大河俣沢を巾着型に回り巡る奥秩父林道の一番に奥まっ た南の端であろう。 素晴らしい眺望である。 暫しは岩上に座って満喫するととする。 北方を眺めれば、幾つにも枝分れをして上がってきた大河俣沢が足 元にまで食入るのが一望に眺められ、遥かに金蔵沢・中野沢の切れ 込みと信濃沢の岩棚からの切れ込みも見える。 振り返って西方に目を上げると三国山から連なる梓白岩の岩峰が こんもりと立っている。 |
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岩壁の中を抜け出た林道の周囲が傍が雑木林になると、 栃本から信州に向かう十文字峠道へと上り繋がる抜け道の登り口がある。 「十文字峠へ」と示した古い道標があるが、うっかりすると見逃してしまう。 彼方を眺め此方を覗きながらで、此処までに一時間半余を要してしまった。 登り口に架けるられた心細い木梯子を脇に垂れたロープに縋りながら上る。 |
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道はかなりの急斜面だ。 コメ栂と石楠花の小尾根を木の根を足場にしながら上り辿る。 踏み後は乱れていて、目印のテープを探しながら行く。 うっかり踏み込むと白岩沢の源流域の深い断崖の上に出てしまう。 小尾根を上がったところで目印テープは沢の源頭を巻くように横に トラバースしてゆく。 この辺りからコメ栂と石楠花の原生林は顕著だ。 |
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十文字峠への古道に出た。 「十文字峠・白泰山」と示された道標がある。 約四十分ほどの登りであった。 この直ぐ下の山肌南面に四里観音避難小屋がある。 以前に股ノ沢を釣り上ってきた時に泊まったが、水場もあって静かで快適な 小屋だ。 この小屋は以前は十文字小屋であったそうだ。 十文字小屋は今の十文字峠の下に移されて、その後地に此の避難小屋は 建てられたのだそうだ。 小休憩とする。 “此処は、もう直ぐ冷たい冬が来る” サーモスの熱い珈琲が美味い気温だ。 |
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気がつくと、行く手に霧が湧き上がってきた。 コメ栂の原生森を上るほどに濃くなってくる。 道を突峰からの鞍部を越えて南面に出るといよいよ酷くて十b先も見 えにくい。 なんと、遠くから雷鳴さえも聞こえてくるようだ。 金を探し求めて原生の中を霧にまかれて徘徊し、 遂には疲れ果てて倒れ伏した己の姿が頭に浮かんできた。 |
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霧の中の四里観音に着いた。 四里観音に訊ねてみることにした。 「観音さま、この霧の中を金鉱を探しに行っても大丈夫でしょうか…」 観音様は頬杖をついて暫く考えていたが、 「さても汝、奥秩父を徘徊するに相応しき者とみゆる。 だが金欲に身を滅ぼしてはならぬ、命あればこそ欲得もあろうというものぞ。 いやまてよ…これは奇態なこと、汝には近い将来に金を手中にするという運気 が出ておる。今日のところは身を愛みて、踵を返してお帰りなされ・・・」 “ありがたやのお告げ、仰せに従い金欲を隠し今日は此処から戻り帰ることに 致しましょう” |
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と・・・、云う訳で。 股ノ沢へ降りる股ノ沢林道の分岐を目前にして戻ることにしたのだった。 なにより観音様のお告げ「近い将来に金を手に入れることができるのだから体を大事にしろ…」が嬉しくあった。 十歩も歩いて振り返ると、四里観音様は深い霧の中に見えなくなっていた。 いよいよ霧の立ちこめる中、 “金が手に入ると・・・” “だから体を大事にしろと・・・” と云いながら転がるようにして奥秩父林道に降り立った。 なんと、下は晴れていた。 大河俣沢の本谷源頭上の十文字山を見上げると深い深い霧に覆われていた。 “金鉱を目指し金を手にするは、なんと難しいことよ…” 吐息も出た。 そんな訳で、 股ノ沢の武田金山の探査は、四里観音様のお告げで頓挫してしまったんですよ・・・。 おしまいです。まだ正午なんですがね。 (この日の帰り路は、物凄い雷雨であった。) 平成21年(2009) 初秋. |
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逍遥時間 林道入り口ゲート〜十文字道への分岐=1時間45分 十文字道への分岐〜十文字道=45分 十文字道〜四里観音=1時間 |
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帰途時間 四里観音〜十文字道の分岐=30分 十文字道の分岐〜奥秩父林道=30分 林道の分岐〜林道の入り口ゲート=1時間30分 |