漂泊の記 入川水系筋  釣り人の夢宿、柳小屋は遠く、


入川 水系  釣り人の夢宿、柳小屋は遠く



今はログ風で居心地も良くて 橋も立派になりました

昭和の頃 虫に刺されて辛かったが楽しい思い出は多くて

釣り人の一夜の夢宿、柳小屋
盛期には多くの人と同宿します、山屋さん・沢屋さん、そして釣りする人、皆が源流を愛する人達です。
『明日は何処へ…』 『尺上を見ました…』などと語らって、早朝に『それでは また何処かで…気をつけて』と勇躍して此処を後にするのです。

柳小屋は荒川の最源流を目指す“釣り人”達の宿、其処への股の沢林道の途は長途です、眺望のきかない途を只ひたすらに歩くのです。
源流の奥域は神聖な原生の中です。また源流の真ノ沢・股ノ沢の流れは清冽で美しく“釣り人”の心の試練の道場でもありましょうか。
森林軌道本線の終点で一休み

  入川下流の本谷沿いの森林軌道途を辿ると此処へ着きます
 大赤沢谷の出合いです、少し休憩をします。
 森林軌道途は赤沢谷で遮断されます 直線に渡渉すると先に
 森林軌道は残されていますが少し上で崩落して懸垂下降で本
 谷への降下を強いられてしまいます 行き止まりです。
 十文字峠へ股の沢林道は此処から大赤沢谷にそつて登り対岸
 へ向かうのです。
 此処までの入川には多くの釣り人が見られます 最近はフライを
 振る方が増えました 谷巾が広く存分に楽しめるのでしょうか。
大赤沢谷を渡る吊橋は立派で

  
休憩所を出発 大岩を押し出した瀑流の大赤沢谷の左岸を少
 し登ると対岸に渡る吊り橋があります 赤沢谷を遡行するには此
 処から入峪します、大赤沢谷は岩魚の谷 奥へ向かうほどに静か
 な逍遥が楽しめます。
(参考=奥秩父岩魚の峪〜大赤沢谷)
 さて 今日は柳小屋へ向かうのです、此処から急な登りでとても
 辛いのです、 少しの間なのですが ジグザグに喘ぎながら行く
 のです、少し行っては立ち止り “今どれくらい 後どれくらい”と
 呟きながら登るのです。
 
十文字峠への分岐

  
吊り橋からの急途を登りきると 途は平坦に大赤沢谷に沿って上
 流へ向います“途を違えたか”と思うのですが 良いのです。
 しばらく行けば林道の分岐、「十文字峠」への道標があります、案
 内に沿って向かって左へ登るのです、真っ直ぐに進むと大赤沢谷
 の中流域 モミ谷の出合いへと続いています。
 股の沢林道は高く高く尾根へ登り 入川の流れからはとても遠く
 に離れて登ってしまうのです。
やっとに見えてきた柳小屋

  
大赤沢谷と分かれて尾根に高く登れば 尾根頭に平坦地が 
 眺望はききません。
 此処からは途はやっと穏やかになって上へ西へとダラダラ進む
 のです、途中に道標があって僅かな踏み跡が下に向かっていま
 す、金山沢へ向かう釣り人途です。
 途は眺望の無いままに続き ガレた小沢を 2本渡ります。
 瀬音が近くなってきて入川の流れが沿うようになって来ますと、
 前方に案内看板が見えてくるのです そして柳小屋です。
 そう 柳小屋は手付かずの原生の中 入川の清冽な流れの辺に
 在るのです。以前は古いが味わいのある小屋でした 今は立派
 な丸太を組んだログ風の小屋に建て替えられています。

 
柳小屋の中はとても居心地が良い

  
“釣り人の一夜の宿”柳小屋は板張りの居間と広い土間に分かれ
 ていてとても心地良いのです。
 シーズン中の連休などは何時も何人かの“釣り人”が泊まっていま
 す 源流へ向かう人達です。
 私は隙さえあれば窓の近くに陣取ります 奥に居ますと朝の来た
 のが判らずに独り取り残されてしまうからです。
 数年前に真の沢で雷雨に遭いズブ濡れでやっとの思いで此処に
 辿りついての時 避難していた著名な沢屋さん達のパーティに熱
 いコーヒーをご馳走になりましたこと 今も思い出します。
小屋前の柳吊橋を渡れば

  
小屋の前の橋も立派になりました。橋の袂に松葉沢が滑床の落
 ち込みを連ねる谿相で出合っています。
 この橋を渡り行くのが“山釣り人”なのです 源流を語るには此処
 の先へ向かうことが必須なのです。渓流ではないのです、原生の
 自然の中へ真摯に臨まねばなりません。
 そう・・・源流の浪漫を求めて “山釣り人”達はこの橋を一歩一歩
 渡り奥域の真の沢へ股の沢へと向かうのです。目にする清冽な流
 れ滑メの発達したの狭間や尊厳な瀑布に畏敬とともに畏怖すらを
 も覚える筈です。其処へ来たこと、竿を一振りできること、で心は
 充分に満たされるのです。

  
此処から先へ行く方々の心の中には“岩魚を沢山釣ろう”とか
 “大きな岩魚を釣ろう”とかなどとの野暮な考えは無いはずです。
 “原生の大自然の中へ浪漫を求めに”行くのですから・・・。
  そう願ってやみません。


                        
平成7年(1995) 夏. 


(逍遥 時間)     森林軌道終点(大赤沢谷の出合い)〜金山沢への分岐= 2時間      金山沢への分岐〜柳小屋= 1時間

(帰途 時間)     柳小屋〜金山沢への分岐= 1時間     金山沢への分岐〜森林軌道終点(大赤沢谷の出合い)= 1時間30分


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