てんから庵 閑話 金採り行…其の三話


金採行…其三話  中津川水系 神流川


 (前編 其のニ話、より・・・。)

 やっとのことで瀑下の大岩に辿り着いた。
すかし見れば、なにやら水面さえも黄金色に輝いているではないか。
まづは、もっと近くに寄らねばならぬ。

 瀑下近くの大岩に辿り着こう。
ヤヤッ 腰までも水に浸かってしまった。
“・・・!!!カッカメラが水に浸かっている!”
大岩の割れ目になんとか手を掛けて上にズリ上がって跨った。
“カッカメラは大丈夫か”
取り出してスイッチを入れてみると、
“あぁ 駄目だ、レンズも出てこなければ液晶も映らない”
唯一の金目の持ち物の、キャノンG3は溺死している。
これには、実な精神的ダメージを受けてしまった。

 悲嘆していてもしょうがない、と気持ちを取り直した。
タオルに包めて首に括り付けていた「金採り仕掛け」を取り出した。
金採り用の仕掛けは、二十bほどのビニール紐にインスタント珈琲の瓶を括り結わえたものだ。
なーんだ、と思うかもしれないが、さんざんに考えての用具だ。
これを投げて、水に沈めて手繰り寄せれば、瓶の中に水底の砂金が入って来るって訳だ。

 “さぁ・・・金を採るぞ。”
コーヒーの瓶を持って、おもいきり投げた。
なんと・・・深ん淵の半ばへも届かない、
コーヒーの瓶は沈むことなくプカリプカリと流れ来てしまったではないか。
“これは、あの水の落ち込み口に投げ込まねばならないのだ”
“そうか、紐を持って振り回してハンマー投げのように飛ばせばよいのだ”

 紐を2m程だしてグルグルと回した。
まるで西部劇のカウボーイの様だ
「グワシャン!!」
後ろで凄まじい音がした。
“ナ・ナンだ ド・ドウシた”
振り向けば、ビニール紐だけがヒラヒラと虚しく風に舞っていた。
“あぁ…無情、後ろに岩があったのだ”
カメラは溺死、金は採れず。 “皆に大言を吐いた責任は如何しよう・・・”
絶望感に眩暈すら覚えた。

 淵尻に戻ってコーヒーを沸かして飲んで一息ついて落ち着きを取り戻した。
“なんとか、金の手がかりの証はないか”
石を除き砂を掘って、この金鉱石を拾い中てた。
“おぉ 金がちりばめ埋まっているではないか”
“やはり やはり、この山域に金はあるのだ、
そして、あの淵底には金塊が砂金が沈んでいるのだ”。

 そうだった、栄光への道のりに苦難はつきものだったのだ。
まだまだ苦難が足りていないのだ、
昔語りを信じてこの淵の水を干そうとした強者の先人も居たではないか、
失敗してしまったけれども。
そう容易く山の神が金を分けてはくれない。
次だ次だ!、でも水はだんだんに冷たくなる。


                  平成18年(2006) 初秋.

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