てんから庵閑話 金採り行…其の四話


金採行…其四話  中津川水系 小神流川


 逆巻ノ瀑の深淵での「金釣り」は結果、失敗に終ってしまった。
「金採り仕掛け」の幾分かの技術上の問題と操作ミスによるものであった。

 又もや出かけた、人の欲得の執念は凄まじい。
技術上の問題はさておいて、操作ミスはすまじと再度に挑戦へと向かった。
しかし、しかし秋の長雨で谿の水は増えていた。
そして、水が異様に冷たくなっていた。
強行しようとすれば、胸あたりまでも水に浸かり、流されてしまう恐れもある。
長年病みの神経痛が又もや発症の恐れもある。
止む無く、断念せざるを得なかった。

 さりならば・・・と、更に上流へと向かった。
其処は、夕陽に岩山肌が黄金色に輝き古来山師が夢想して徘徊した処だ。
其の岩山から流れ出る谿の奥へと向かった。
物は法則に従って上から下へと落つるのが定石。
下流に砂金が溜まるのは、上流にその源があるは必定。
少々の腰の痛みと膝の痛みを圧して、鬼面相で遡れば、
四周が赤茶色の岩壁で屹立した幽閉な処に出た。
瀞を覗けば、定岩魚がニ・三匹。
“更に・・更に・・・”と遡り行けば、
いよいよと岩壁は圧し迫って恐ろしいばかり、水流も一跨ぎほどに細まった。
異様な雰囲気に、ふっと・・・、横壁を見れば四尺円ほどの穴が穿ってある。
これぞ・・・古への山師の掘った穴に違いなし。

 穴中を覗けば、奥深く暗くて見えぬ。
手を差し込みたかったが、団子蛇に喰われてもいけない。
“エィ!”と小石を投げ込めば、奥の方で“ゴソリ”と音がする。
蝙蝠が飛んで出たには、腰の抜けるほど魂消た。
而して、穴の周りを見れば。
なんと・・・、光る石が一つ二つ三つ・・・。
手にしてみれば、比重高くあるらしく異様に重い。
“やはり、やはりそうであったか。正に違いなし”
光る石を拾い意気揚々と来た谿筋を天を歩む心地で降り帰還した。

 其の日、体は疲れたが金鉱を拾ったことで、気が昂じてか眠れなかった。
翌日、“昼飯を喰うか・・・”と近くの中華ソバ屋へと行く。
此処の店主は、何故か実に「石」 に詳しいのだ。
細かいことに突き詰める探究心が強いらしい。
そのくせ、料理の味が今一っなのが解せない。
「光る石」を新聞紙に包み、出かけた。

 チャーシューメンと餃子を一皿食した。
さても・・・と、光る石を取り出して店主を呼ぶ。
『この石を見たまえ』 と云えば、
『フ〜ム』 と唸る。
『恐れ入ったか』 と云えば、
『フ〜ム フ〜ム』 と云う。
『どうだ、喰った代金の代わりに、この石を一個置いてゆこう』 と云えば、
『いいや、現金七百八十円を置いてゆけ』 と云う。
「光る石」 よりも1000円に満たない現金のほうが価値があるというのか。

“そんなことはない”
げに・・・、夢の見れぬ小人は、自らその運を閉ざしてしまうものであるらしい。

                         
平成18年(2006) 秋.

                     
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